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筆者の日課は街中の散歩なのですが、ここ1 〜2 年で外国人観光客が増えたことが大きな気付きの一つです。休日に渋谷や原宿を訪れると、海外でも人気のオニツカタイガーの店舗に人々が溢れ、道玄坂のドン・キホーテでは日本特有のお菓子を大量購入する外国人観光客が目立ち、異国情緒あふれる光景に驚かされます。本稿では、拡大するインバウンド消費について、ここ数年の変化と今後の可能性を考えていきます。

 

訪日外国人観光客数の動向と消費行動の変化

2023年後半から訪日外国人観光客数は著しい回復を見せています。
特に2024 年に入ってからの勢いは驚異的で、1月から6月までの観光客数は2019 年の水準を全ての月で上回っています。観光庁のデータによれば、2023年には累計で約2,507万人が訪日し、消費額は約5. 3 兆円に達して過去最大となりました。この増加の背景には、円安による日本の割安感や航空便の増便が需要に応えていることが影響しています。

コロナ禍を経て訪日観光客の国籍や消費行動も変化しています。以前は訪日客の約30% を占めていた中国人観光客の割合が減少し、韓国、台湾、香港、アメリカなど多様な国からの観光客が増加しています(図1)。また、消費行動においても、爆買いに代表される“ モノ消費”よりは、宿泊料金や飲食費などのいわゆる“ コト消費” の伸長が強く見られます(図2)。これは、観光客がより深い日本文化や体験を求める傾向を反映していると考えられます。

▲図1:訪日外国人の国籍構成
(日本政府観光局(JINTO)より作成)
 

▲図2:訪日外国人の項目別一人あたり消費金額
(訪日外国人消費動向調査より作成)
 

日本各地に眠る観光資源

コト消費に成功した事例として、山形県をご紹介します。筆者が驚いたのは、2024年1月の山形県のインバウンド消費額が2019 年1月の10 倍以上に達したことです。急成長を支えた要因の一つに、天童市の旅館経営者らが連携して地元の魅力を伝える旅行商品を企画したことが挙げられます。たとえば、早朝にさくらんぼを味わいつつ果樹園スタッフと交流するツアーや、サイクリングと山形の新鮮な桃を楽しむツアーなど、地元の魅力を活かしたプランが観光客に好評となりました。これらの企画のポイントは商品だけでなく地域の魅力も企画として販売することで、一人あたりの消費金額を上げていることです。一見シンプルな取り組みですが、販売方法を工夫することで観光資源化させた成功例と言えるでしょう。

また、私は日本のものづくりの現場に、観光資源としての付加価値があるのではないかと思っています。先日筆者は福井県のとある眼鏡製造企業を訪問し、伝統製法を受け継ぐ製造現場を拝見しました。印象的だったのは、商品の製造現場を見ることで、細部へのこだわりや働く人々の想いを見ることができ、自らの眼鏡に対する愛着心が高まったことです。それはおそらく外国人にとっても同じことで、商品の品質以上の付加価値をもたらす可能性があると思います。

 

まとめ

日本国政府が掲げるインバウンド消費額の目標は、2030 年に15 兆円(2023年の自動車輸出が約17兆円)と一大産業になる見込みです。この目標を達成するためにどうすればよいか。今後増加する外国人は、欧米からの長期滞在目的の旅行者や、2回目、3回目の訪日をする旅行者という中で、彼らは各地域の文化や人々との交流といった、その土地独自の魅力を経験したい傾向が強まるでしょう。そして上述したように、日本各地にはまだ眠っている観光資源が沢山あると考えています。これからのインバウンド消費は、これらの眠っている観光資源を見つけ、いかに商品化していくかが鍵を握っています。私たち一人ひとりの気付きがビジネスとなり、インバウンド消費を拡大させていくことを期待しています。

【運用調査部 アナリスト 村瀬 翔】

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