電力依存を強める現代
電力需要は今後ますます高まる見込みです。研究機関等の予測に幅がありますが、需要量は2022年の9,028億kWh(実績)が2040年には10,000億kWh に達すると見られています。需要拡大の理由は私たちが電力依存を強めているためです。
例えば半導体です。半導体は様々な電化製品に組み込まれる他、情報化時代に不可欠なデータセンターにも大量に用いられます。EV化やスマート化により必要な半導体数はますます増加すると予想されます。また海外の半導体メーカートップによれば、半導体工場を稼働させるのに必要な電力量は都市一つに匹敵するそうです。太陽が無ければコメが育たないように、産業のコメである半導体も電力が無ければ製造できません。使うにしろ、作るにしろ膨大な電力が必要になります。
困難はあるが原発は必要ではないか
では電力の供給体制はどうなっているのでしょうか? 我が国は2050年のカーボンニュートラル実現を目指し、太陽光などの再生可能エネルギー活用を進めています。資源エネルギー庁によれば、2030年には発電量の36%~ 38%が再エネになる見通しです。しかし地理的制約により再エネ活用には一定の限界があるというのが専門家の一般的な見方です。そのため水素・アンモニア等の早期社会実装が期待されますが、2030年時点でも発電比率は1%に留まる見込みです。この中で原子力発電は重要な選択肢の一つです。福島第一原発事故の記憶が新しい中で、特に原発施設の近隣住民の方々の中には、自分たちが使わない電力を大都市へ供給することに複雑な思いを抱く方も多いでしょう。しかし前岸田政権時に決定した原発再稼働方針を住民の理解を得ながら、原発再稼働を慎重に進めることが必要ではないかと思います。
溶融塩炉への期待
海外の電力事情も日本と類似していますが、原発を活用する動きが全体として見れば日本より活発な印象です。安全性に配慮した新型原子炉開発に国家がコミットする例も多く、その一例が米国等で開発されている溶融塩炉です。
ここでの溶融塩とは溶媒にフッ化物を用い、ウランやトリウム等核燃料物質を溶かした液体核燃料を指します。マグマをイメージするとより分かりやすいでしょう。炉内で臨界に達した溶融塩は管を循環し、水を温め水蒸気を作ります。それがタービンを回すことで電力が得られます。溶融塩は液体なので、万が一の場合でも管からドレインへ逃せば自然に冷えて固化し、臨界は止まります。原理的には安全性が高いとされます。溶融塩炉は1960年代に確立された技術ですが、東日本大震災以降、安全性が評価され世界で急速に注目され始めています。イギリスでは船舶に溶融塩炉を搭載する革新的なプロジェクトも進行中です。ところが我が国の原子炉開発計画には含まれていません。国際的な技術開発競争から取り残されない取組みが必要なのかもしれません。
ビジネスチャンスは何処にあるのか?
電力問題の解決には省エネ推進、効率的な送電システムの構築、小規模分散型発電所の開発等、柔軟かつ革新的なアプローチが求められます。プルトニウム処理も含めた総合的なエネルギー管理政策も必要不可欠です。課題解決のためのグランドデザインを誰が書くのか、書いたデザインに沿って、どの企業が、何を、いつまでに取り組むのか? これらの問いに応えることが新たなビジネスチャンスと言えるでしょう。困難が大きいほどイノベーションの機会も大きくなります。こうした企業を発掘し、応援し、長期投資家として一緒に歩んでゆくのが私たちの役割だと考えています。
【運用調査部 アナリスト 小宮 力】