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投資と心理学に共通する要素、「曖昧性」。心理学者の櫃割 仁平(ひつわり じんぺい)さんと共に、その可能性と面白さを探究していきます。


ここ数ヶ月で、さわかみ投信の中でも特にお世話になっている熊谷さん、黒島さんというお二方の著書を拝読しました。それぞれ角度は違いながらも「日本にはまだまだ素晴らしいものがたくさんある」そして「世界に伝えていこう」というメッセージは共通していたように思います。黒島さんの、海外で戦っていた若手研究者時代に、今まさに異国の地でもがいている自分を重ねると同時に、熊谷さんの「日本から世界へ」という熱いメッセージに背中を押されています。

日本の美意識

さて「日本には素晴らしいものがたくさんある」という考えですが、私も同じように思っています。私の場合それは、日本的な美意識とそれに伴う芸術、芸道です。思想家の中江兆民は「我が日本、古より今に至るまで哲学なし」と書いたそうですが、その一方で「あはれ」「さび」「いき」といった日本的美意識が日本人に影響を与え続けてきました※1。これらは西洋で誕生した「美」よりも広い概念で、私たちは、散り際の花、古びた茶器、朽ちた庭園などにも心を動かされてきました。

これらの美意識は、伝統的な仏教や神道といった宗教、豊かな四季や自然といった気候、風土などに影響され、生まれてきたと言われています。その感性が、茶の湯、いけばな・盆栽、俳句などの芸術、芸道を生んできました。

▲ 日本を飛び立つ少し前の 2024年2月、日本で最大の盆栽展を訪れました。

サービス、プロダクトにも美意識

2010年代以降、起業家やビジネスパーソンにも「アート思考」や「美意識」が求められるようになってきたことは、多くの人が実感しているところかと思います。論理的な判断だけではなく、感性的な判断も指針にすることによって、事業をドライブしていけるのだと思います。そして、上述してきたような日本的美意識は、意識的であれ、無意識的であれ、私たちに根付いているため、皆さんの普段見ている、使っているサービスやプロダクトにも反映されています。

個人的に、この話題で1番最初に思いつくのがAppleという国外の会社なのがやや悔しいのですが、禅の精神を採り入れた洗練されたデザインにファンが多くついているのは周知のことかなと思います。その他にも、無印良品 ( 私の住むハンブルクにもお店があり、いつも賑わっています ) のミニマルさとくすんだ色合い、風合いにも日本的美意識を感じますし、最近読んだダイキンの「空気のデザイン」という記事にも興味をそそられました※2。

▲ 2024年9月はウィーン大学で学会がありました。建物それ自体が美しく、ここで一流の研究者と議論できたことを嬉しく思います。

心理学、脳科学的研究はほぼ皆無

こういった日本的美 意識は、私たちにとって一般的で、独特の特徴があると思いますが、残念ながら心理学や脳科学ではほとんど研究されていません。1番の理由は、多くの心理学者、心理学雑誌が欧米中心であるということですが、私はここに挑戦していきたいと思っています。日本的美意識を扱った研究を世界の人に見てもらう、そしておもしろいと思ってもらうことを目指しています。

そのために、研究をする、論文を書く以外にやっていることがあります。それは、顔を覚えてもらい、どんな研究をやっているか知ってもらうために足を動かすことです。仮に論文上で、日本的美意識の研究成果を発表できたとしても、全く無名の日本人が1人で言っているだけでは、そのインパクトは小さいと考えているからです。ドイツに来てから半年足らずですが、既にスペイン、チェコ、オーストリア、イタリアと4ヶ国の学会に参加しました。小さな分野であるため、その4つの会の中で3回も出会った研究者の方も何人もおられます。とても地道ですが、このようにして研究を広げる種を蒔いている最中です。

心理学の領域でも「日本から世界へ」に挑戦している人がいることを知っていただけると嬉しいです!

■引用文献
※1~田中 久文 (2013) 「日本美を哲学するあはれ・幽玄・さび・いき」/青土社
※2 ~amana iNSIGHTS (2017)「見えない空気をデザインするには?(ダイキン工業 )」

 

【研究顧問 櫃割 仁平】

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