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長期投資家は相場を読まない。代わりに実体経済の先行きを読む。誤解のないように言葉を重ねるならば、長期投資家であろうと相場をとてもよく見るし、先行きについて真剣に考える。しかし相場には過度につきあわず、相場動向だけで投資をしない。投資相手はあくまでも株式、つまり企業だ。企業の業績動向や将来像について徹底的に調査・分析し、価値の行く末を推と論で詰めていく。そうして算出した企業価値と実際の相場、つまり時価評価が大きく乖離する場合に売買を執行する。もちろん価値より相場が大幅に低ければ買い、逆に高ければ売り、という判断だ。

それが昨今、実体経済を先読みする投資の王道が無効化されているように感じる。いつかは「王道たる長期投資の時代」が来るだろうと高を括るのは危険かもしれない。さわかみファンドであれば、例えばITバブル崩壊後の成功体験にしがみつくべからずということだ。

長期投資が効かない背景

相場が相場をつくる展開になっているからだ。マネーの向かう先が次の相場となるのは今も昔も変わらない事実。しかしそのトリガーが純粋な企業業績や景気循環ではなくなり、政府や中央銀行の言動が最重要となった。リーマン・ショック以後の世界のマネーのバラ撒きがその背景にあり、現在、政府・中央銀行は相場を支配できると考え、実際にそうなっているように見える。

企業が発表する業績予想もあてにならない。各国政府の動きに翻弄されつつも、不測・不確実な要素は加味し難いため原則的にはリニアな右肩上がりの業績成長を描く。それゆえにその角度を、強気を持ってあげている企業が花形となり、投資家も額面通りに受け取ってマネーを流し込む。そして急にサプライズ(予想と違うこと)が起こるや、株価は狂ったように反応する。その繰り返しだ。

惰性でつくられた企業業績予測と過剰反応する相場。そのギャップに投資妙味はあるものの、本来的な長期投資家のリズムとは相反する。企業価値の上昇カーブを算出して相場とのズレを狙うボトムアップ・アプローチが求められるのが王道であったが、現在は、隆盛を極める相場や注目される産業・業界ありきで投資リズムをつくるトップダウン・アプローチが有効なのかもしれない。

相場を先読みすべき時代

株式相場の地合いはしばらく強いと思われる。日本に限って言うなら、新NISAで生み出した投資マネーが本格的に日本株式市場に流れ込み始めたらとんでもない上昇を見せるだろう。しかしそれは相場の話で、実体経済との乖離は肥大化する一方。その落差こそが調整時の幅となる。

現在、大企業を支える中小企業は強い状況にはなく、そこに従事する人は数多だ。仮に中小企業の悪化が白日の下にさらされでもしたら全体への影響は計り知れない。それゆえに、さわかみファンドはキャッシュを確保して買い場を待つ戦略を押し通している。

しかし運用成績なかりせば受益者からの信頼も期待も剥落する。オルカンやS&P500などのインデックスファンドが良い成績を出している間は忍耐と苦しみが続き、受益者から次の大相場を戦える資金や時間をいただけるのであろうか。

長期投資のリズムを変えるわけではないが、相場との間合いを再検討すべき時が来ているのかもしれない。いや、健全に思考を巡らせていかなければならない。

 

【2024.11.18記】代表取締役社長 澤上 龍

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