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あなたの投資が、日本経済の行方を左右しているとしたら、どう思うだろう。

「いきなりなんの話?」と思うかもしれない。だが、私たちが合理的だと思っている行動が、未来の生活コストを押し上げ、社会全体に深刻な影響を与える可能性がある。

2024年、日本の資産運用業界は新NISAの導入をきっかけに新たな時代を迎えた。インデックスファンド「オール・カントリー(オルカン)」をはじめとする海外メインの投資信託が市場を席巻し、11兆円もの資金が海外へ流出。この動きは、日本の資産運用が進化した象徴ともいえるが、その裏側には見過ごせない現実がある。

多くの投資家が海外市場を選ぶ理由は、高い成長が期待できるからだ。少子高齢化や政府債務の膨張が進む日本に対し、アメリカなどの海外市場は人口増加や活発な消費、継続的なイノベーションに支えられている。GAFAに代表されるような企業が生まれる市場に投資するのは自然な行動だ。一方で、その裏で日本経済が受ける影響について語られることは少ない。

 

合成の誤謬(ごびゅう)と
キャピタルフライト

ここで考えたいのが、「合成の誤謬」という経済学の概念だ。個々の合理的な行動が、それが合成された全体に悪影響を及ぼすことを指す。1929年の世界大恐慌では、投資家が損失を恐れ一斉に株を売却した結果、市場が崩壊し、経済が深刻な危機に陥った。また、交通渋滞の例では、抜け道を選ぶドライバーが増えることで、かえって全体の流れが悪化することがある。

現在の海外投資ブームもまた、キャピタルフライト(国内資金の大量流出)を引き起こし、日本経済に深刻なリスクをもたらす可能性がある。円を売りドルを購入することで円の需要が減少し、その結果、円安が進行するのだ。

 

円安が招く未来

日本はエネルギーの約90%、食料の約60%を海外から輸入している。円安が進めば、輸入価格の上昇により家計負担が増加し、電気料金やガソリン代の高騰が避けられない。たとえば、1ドル=150円から165円に為替が動くと、輸入コストは約10%増加する。これにより電気料金が月5,000円から5,500円に、ガソリン代がリッター150円から165円に上昇する可能性がある。

こうした影響は、家計負担を増やし消費を冷え込ませるだけでなく、企業利益の圧迫や雇用への悪影響にもつながる。合理的と考えられた「海外投資」が、日本経済全体を苦しめる要因となることは、意識したい。

 

日本の未来を支える投資

さわかみ投信は、創業以来、日本企業への投資を主軸としてきた。それは、その企業の事業成長可能性に加え、日本で生きる人々の資産を国内で活用し、日本経済を循環させるという意図があるからだ。国内消費を刺激し、その結果として企業活動を後押しする。私たちは、この循環が日本経済を活性化する鍵になると考えている。

個人が利益を追求することは当然の行動だ。実際、私自身もその重要性を否定するつもりはない。一方で、その集合体が社会全体を形成していることも真実だ。個人の預貯金1,100兆円という巨額の資産をどの方向に活用するのか。それは、私たち一人ひとりの選択に委ねられている。

私たちには未来を変える力がある。

さわかみファンドは、その意思の結晶であり、皆さまと共に歩みながら、これからも長期投資を通じて、日本の未来を照らす灯火となる努力を続けていきたい。

【取締役副社長 熊谷 幹樹】

 

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