■過去の苦労を乗り越えて
森實アナリスト(以下、森)過去、様々なご苦労があっての現在だと思います。そのご経験と、これからどのようにして乗り越えようとされているのかお話しいただけますか?
NTN 鵜飼社長(以下、鵜)リーマン・ショックは我々にとって大きな出来事でした。2008年3月期まで順調に推移していた利益率がぐっと下がりました。新興国からの安価な製品、特に中国製品の浸透が主な理由です。当初は「安かろう、悪かろう」というイメージが強かった中国製品ですが、時間が経つにつれて品質が向上し、リーマン・ショック対応などをしている間、それに気づくのが遅れました。
森 どのような対策を講じたのですか?
鵜 国内外の主要拠点の従業員としっかり話をすることから始めました。売上や利益率の悪化など、同じデータを見ながら反省点を共有しました。その後、設計標準を見直し、新しい材料や技術を取り入れるなどのアイデアを出し、そのアイデアを積極的に採用して新サプライヤーの発掘にも力を入れました。これにより競争力を高めるための基盤を整えることができたと思います。
森 販売戦略も大事だと思いますが?
鵜 はい、販売戦略も見直しました。価格交渉の重要性を再認識し、お客さまとの対話を強化しました。従来は価格交渉で「無理です」と諦めていた部分もありましたが、エビデンスを持って我々の製品の付加価値を説明し、理解を得る努力をしました。結果、値上げを認めてもらえるケースが増え、お客さまの7~8割が付加価値について同意いただけたようです。もう1つは補修市場向け販売の強化をさらに進め、ポートフォリオを変えていきます。

▲NTN 株式会社 取締役 代表執行役 執行役社長 CEO( 最高経営責任者) 鵜飼 英一様

▲さわかみ投信株式会社 代表取締役社長 澤上 龍
■現場の社員と向き合う
黒島CIO(以下、黒) 鵜飼社長がおっしゃる現場社員とのFace to Face対話。「Go To 現場」のメッセージの背景には、どのような想いがありますか?
鵜 実際に現場に足を運ぶことで、社員が当事者意識を持てるようになります。従業員が上司に意見を言える環境が整っているかということも重要です。
黒 現在、どのような課題がありますか?
鵜 例えば研究開発の部門では、部門長によるトップメッセージのブレークダウンの仕方が一つの課題です。若い社員が「社長が言っていることはどうなのか」と不安に思うこともあるという意見もあります。
黒 解決するためのアプローチ方法は?
鵜 会社の理念が浸透するために、もの造りに最も近い現場までおりて、若手社員との対話を増やします。またお客さまの懐に一緒に入り込むなどし、そこから得た情報を基に行動していきたいです。
森 改めて今、社員の皆さまに向けてメッセージはありますか?
鵜 最近、入社3年ほどで転職するケースが増えているのは、弊社だけではなく全体的な傾向です。キャリアを考える上で目標を持って挑戦することは大切ですし、転職自体は悪いことではありません。他の企業でも働いてみて、NTNのほうが良かったと思えれば、いつでも戻ってきてほしいと伝えていますし、そういう職場でありたいです。
仕事では上司は選べないことが多いですが、与えられた仕事に最善を尽くすことで、自分の価値を高めることはできます。単純な仕事でも常にNo.1を目指す姿勢が重要で、会社の誰かがその努力を必ず見ています。小さな成功体験を積み重ね、自信や次へのチャンスにつながり、いずれどんどん仕事が舞い込んでくるようになり、ある日プロジェクトの中心メンバーになっている可能性もあります。
■企業が投資家に伝えたいこと
さわかみ投信社長 澤上(以下、澤) 近年、インデックスファンドが増えたこともあり、投資家と企業との対話が薄くなっているように思います。現在の投資家の姿勢についてどう見ていますか?
鵜 企業の活動内容を見る投資家が少なくなりました。我々は100年以上、エネルギーの無駄を省く商品を提供してきました。人々が安心安全に暮らせる地球を維持向上していく……長期的な視点での経営が必要となります。そのため、本当は投資家の皆さまに我々の経営ビジョンをご理解いただき、長期目線で投資いただけると非常に助かるのですが。
澤 その通りですね。企業の努力が投資家に届かないのは残念です。投資家に対し、株価情報のみならず、どのような企業実態を強く伝えていきたいですか?
鵜 従来のハード売りから、昨今は状態監視とデータ活用によるサービス提供へとシフトしています。例えばHA-Cという新しい軸受では、小型化と長寿命化を実現しました。また工作機械のスピンドルは、ミスト潤滑からグリース潤滑に変更してエネルギーの無駄を削減しています。これにより部品の寿命を延ばし、適切なタイミングで保守が可能になります。我々は持続可能な社会に貢献するため、データを活用したサービスの強化に注力すると世の中に発信しており、このような意義を投資家の皆さまに賛同いただき、投資してもらえればと強く願っております。
澤 さわかみファンドは運用26 年目、受益者であるファンド仲間の皆さまの多くが保有期間10年超の投資家です。そこには、私たちが企業努力から生まれる将来価値に寄り添う長期投資家の姿があるからだと自負しております。鵜飼社長の本日のお言葉をそういった方々に伝えることで、たとえ現在が厳しい状況にあったとしても、それが次の成長への準備期間であると理解されるように考えます。さわかみファンドは今後も、企業との対話を通じ、タッグを組みながら一緒に未来をつくっていくことをお約束します。
鵜 ありがとうございます。我々の使命は地球環境に貢献することです。ハード売りからサービスへとビジネス形態は変わりますが、目的は変わりません。開発、設計、調達、製造、販売の基本業務を強化し、企業価値を高めてまいります。そのためには人が最も重要です。個々の成長を促す環境を提供し、好奇心を持って学び続けられるようにサポートします。そういった積み重ねによる成長は個人の喜びにもつながりますし、人生においても重要な要素だと思っています。私たちはそうした会社を目指していきます。
【運用調査部 アナリスト 森實 潤】