「言葉の力で、一人でも多くの人に勇気と安らぎを届けたい。」
そのように願う碧魚まりさんの言葉は、未来を築く力そのものです。
この度、さわかみ投信が夢に向かって頑張る人を本気で応援する「#かなえたい夢プロジェクト」の一環として、まりさんに『長期投資だより』にて定期的にエッセイを連載していただけることとなりました。
小学校教員としての経験を持つ彼女が描く『日本の未来』とはどのようなものでしょうか。
まりさんの言葉たちが、皆さまの心に届き、未来を育んでくれることを願っております。
流れてきたネットニュースを思わず二度見した。どうやらお気に入りのご飯屋さんが来月末で閉店するらしい。
具だくさんのお味噌汁や煮物など提供されるおかずはどれも滋味深い味で、身体にじんわり染みていくようだった。店を切り盛りするのは、母の世代より少し下くらいの柔らかい笑顔が印象的な方。まだ3回訪れただけであったが、私の中ではすっかり行きつけの店で、これからも足繁く通うつもりだった。
最後に食べに行ったとき、ふと、手紙を渡すことを閃いた。
というのもつい先日、部屋を片付けていて保護者からいただいた手紙を読み返す機会があった。私は小学校で働いており(今は育休中)、最後の個人懇談会や、修了式間近に1年間のお礼を伝えてもらうことが多い。その際にいただいた言葉は、ぽっと胸に明かりを灯し、その年の頑張りが報われたような晴れやかな気持ちにさせてくれる。しかし、そのときはうれしくとも、その言葉たちは時間の経過と共にいつのまにか頭の片隅に追いやられ、少しずつその記憶の輪郭は曖昧になってゆく。しかし便箋に丁寧に綴られた言葉たちは、久しぶりに読み返すと○○さんってこんな子だったな、あのときこんなやり取りをしたな、と当時を鮮やかに思い起こさせる“よすが”となった。
引き出しに眠っていた桜柄の便箋を取り出した。美味しかったおかずのこと、お店でご飯を食べてほっと心が緩んだこと。さらさらと書くつもりだったのに、思いのほか筆は動かない。ああでもないこうでもないと推敲を重ねながら、温かな記憶を少しずつ言葉に変えてゆく。書いているうちに、これまで交わしたやりとりをたくさん思い出すことができた。便箋の最後の行を埋めて封をすると、何だか不思議な達成感に満ちている。
数日後、お会計の際にこれまでの感謝の気持ちを伝え、手紙を渡した。
「うれしい! いいの?」両手で受け取った彼女は声のトーンをあげ、にこにこと細めた目をわずかに見開く。そんな反応が何だかくすぐったくて、わたしも思わず笑顔になった。少し勇気がいったが、渡せて良かった。
書いてうれしい、渡してうれしい。誰かに感謝の手紙を書くことは一度で二度、心の体温を上げるらしい。
ふと、お世話になった人へ感謝の気持ちをしたためることは、自らのこれまでの歩みを振り返ることと同義かもしれないと考えた。
数多の出会いと別れが交錯する春、いつでも見返すことのできる「手紙」という手段を用いて軽やかに感謝が飛び交えば、書いた方も受け取った方も温かな気持ちでまた心機一転、踏み出せるかもしれない。
今年度も日本各地で「ありがとう」がたくさん飛び交う関係性が生まれて欲しいと願っている。
碧魚 まり
note というSNS でエッセイを書き始めて4 年。いつか文章を書くことも仕事にしたい小学校の先生。食べること、書くこと読むこと、ことばにまつわることが好きな1992年生まれ。

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