運用調査部では将来予測への力を錬成するために、その思考のベースとして現場へ赴き直接自身の目で見ることを大切にしていますが、この度インドにてモーターショーへの参加、インド~タイと移動をしながら両国にて投資先企業の工場見学へ行ってまいりました。
得られた知見はこの後運用にしっかり活かして参りますが、その前に少し先取りしてその内容を皆さまと共有させていただきます。
インド調査編
【運用調査部 アナリスト 森實 潤】
投資先企業のインドでの実態とモーターショーでの所感
今回の出張ではインド市場におけるスズキ(マルチスズキ)の圧倒的な存在感を確認することができ、ニューデリーやグルガオンの都市部ではガソリン車とCNG車(燃料が天然ガス)が多く見られました。CNG車の購入価格はエンジン車より高くなりますが、燃費が良くガソリンよりも燃料費が安価なためトータルで見るとお得です。マルチスズキの販売台数の約35%がCNG車であり、都市部では特にその比率が高い傾向にあることがディーラーの取材を通じて確認できました。将来はCNGの代替として、温暖化で問題になっている牛糞から出るバイオメタンガスを燃料とするCBGの活用も期待されています。
インド最大のモーターショー(Bharat Mobility Global Expo2025)では、出展しているほとんどの自動車が電気自動車でした。この時には、インドの実態とこのモーターショーで、かなりのギャップを感じました。充電設備などのインフラ状況のこと等を考えると、急速に電気自動車が普及することは厳しいのではないかと思います。この度の現地調査を通じた結論としては、エンジン・CNG・電気自動車とインドに適したマルチパスウェイでやっていく企業が最終的に生き残ると確信しました。
またそれらを通じ、インド市場における投資先企業の強みと今後の成長可能性を再確認できました。と同時にCNG車の動向、地場メーカーの台頭などインド市場の特性を深く理解する貴重な機会となりました。

▲ ニューデリーの街並み

▲ インド最大のモーターショー(マルチスズキブース)
オーエスジー、 CCT社(Carbide Cutting Tools Pvt, Ltd.)工場見学
今回の工場見学は昨年の続きです。昨年タイにて同社の工場見学をさせていただいた際に、常務執行役員 南アジア及び中近東統括者の米田氏より「次はインドに来てくださいよ!」とお言葉をいただいたので、実際にカルカッタにあるCCT社へ行ってまいりました。同工場はアジアにおいて超硬ドリルとエンドミルを製造する重要な拠点であり、同氏によって18年前に再生された背景があり、氏の「思い入れの深さ」を感じられる特別な工場でした。現在では日本円にして売上高10億円、利益率35%という高い利益率を誇っています。輸出が8割を占め、人件費を抑えながらも高品質な製品を提供することで、他地域に比べて高い収益性を実現しています。
工場見学では材料調達から加工・仕上げ・コーティング工程まで製造の全工程を見学させていただき深い学びとなりました。工場内では外国メーカーの高価な精密機械が使用される一方、インド製の機械も導入されており、コストと品質のバランスを巧みに管理していることが印象的でした。コーティングについても質問を通じて理解を深め、質の高い製品を造っている背景を感じました。
CCT社は単なる製造拠点ではなく、オーエスジーの歴史や戦略、そして未来を感じさせる場所でした。ガンジス川を背景に撮影した集合写真(タイトル下写真)は、これから投資先企業と我々がともに未来へ歩んでいく姿の礎です。
タイ調査編
【運用調査部長 斉藤 真】
ダイドー電子(大同特殊鋼株式会社・磁性材料)タイ工場見学
今回ツアーの最後の訪問では、大同特殊鋼株式会社100%子会社で主に同社の機能材料・磁性材料セグメントを支えているダイドー電子(タイ)の工場見学の機会を得ました。足元ではステンレス(半導体産業向け)や高合金(航空機向け)による成長が期待される同社ですが、その次に注目されるネオジム磁石の競争力を確認することが訪問の目的です。

▲ ダイドー電子工場前にて、社員の方とともに撮影
今回の訪問先は、1994年日系顧客にHDDの部品を供給する目的で操業が始まり約30年の歴史を持っていましたが、その歴史の中で需要の変遷や中国勢の台頭(原料や競合に影響)などに大きな影響を受けながらも、大胆に適応・変化し事業を継続している力強さが非常に印象に残りました。ちなみに現在は磁石の4分の3が自動車・二輪車向け、4分の1が工業需要向けとなっており、HDD向けへの供給はほとんどなくなっています。一方技術の競争力からは、同社の特徴である熱間加工(現在の市場の主流は焼結加工)や射出成型技術を活かした複雑な形状や関連部品との一体成型で顧客の要望に細やかに対応してきたことが、事業を継続できた基盤になっていると確認できました。
磁石需要は電気と運動エネルギーの仲立ちとして持続的な成長が期待されますが、その反面、価格への要求や安定した原料確保の難題に応え続ける厳しい経営努力が求められます。大同特殊鋼グループでは、製法の独自性を活かしながら本命であるEVモーターへの採用を目指していますが、最終的には人命に係るような製品に採用される目標へ向かうことができるのも、このタイのような顧客の信頼に長年応えてきた生産現場があってこそとの思いを強くして帰路につきました。

▲ タイ・バンコクの街並み
着陸直前の窓から見たインドの地はビルの上部しか見えないほど大気汚染が酷く、現地5日間の日程を入国する前から後悔するほどのインパクトがありました。メンバーは発熱・下痢・咳と“謎の不調”にも見舞われましたが、対価としておつりが来るくらい現地・現場でしか得られない貴重な情報に触れることができました。